衝撃的ラストだった「電波の城/細野不二彦」レビュー 2/5 (1)

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あらすじ

ある日、東京で小さな芸能プロダクションを営む男・鯨岡の下に、一人の若い女性が自分を雇えとやってくる。彼女の名前は天宮詩織。天宮はその卓越した才能と美貌で、テレビ局の出世の階段を登り詰めていくが、彼女にはとんでもない秘密があった。テレビ局の表と裏を余すところなく描いていく野心作。

 

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細野不二彦の描く漫画

この作者の細野不二彦さんは物凄く漫画の見せ方やストーリー運びが上手く、気付いたら読みふけってしまう漫画が非常に多いです。絵が上手いわけでもなく、世間一般の誰もが知っているようなメジャーな漫画を描いているわけでもないのですが、それでも漫画好きならどっぷり読みふけってしまうような漫画をいくつも出しています。漫画好きのツボを見事に抑えていると言いましょうか…。それでいて目をしかめるようなマニアックすぎるテーマでも内容でもありません。悪く言えば中途半端と言えなくもないので、この辺が歴史に残る漫画になりきれない一因かも知れませんが、私はこの「悪く言えば中途半端」、「良く言えばバランス取れた」細野不二彦さんの漫画は凄く好きです。

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もう一つ言うと、細野不二彦さんの描く漫画は、決して読んでいて気持ちが良いとか、純粋に心が洗われるような漫画ではなく、清濁併せ持った話が多く、物凄く嫌な奴も出てきますし、気分が悪くなるようなエピソードもあります。この辺も万人受けはしない理由かも知れません。実際に細野不二彦さんが好きな私でも、細野不二彦漫画を立て続けに読む気にはなれません。どうしても心にダークな気分が残ってしまいますからね。

 

少し変な例えですが細野不二彦さんは、ゲーム機のサターン、漫画雑誌の少年サンデー、キャプテン翼の松山君、ドラゴンボールのクリリンかなと。私は良くメインストリーム(主流)と少しずれた例えをする場合にこの例えをします。

 

あくまでメインストリームのPSでも少年ジャンプでもなく、主人公の翼君でも悟空でもない。主役を食うほどではないけれど、その脇役で好きな人は好き、ちょっとマニアック、玄人受けする。そんな例えで使っています。実際私もこれらに全て当て嵌まっていて、PSよりサターンの(ソフトの)方が好きでしたし、漫画雑誌では少年ジャンプより少年サンデーが好きでした。キャプテン翼では松山君が一番好きでしたし、ドラゴンボールではクリリンが一番好きでした。そんなメインストリームからはちょっと外れた、少しマニアックで玄人好みするような趣向の人には、この細野不二彦さんの漫画はドストライクだと思います。

 

もう一つの顔

細野不二彦さんの漫画は「もう一つ裏の顔がある」、「隠された秘密がある」との話が多いのですが、この電波の城もその特徴が良く出ている話です。

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主人公の天宮詩織(しお)はFM曲のしがないアナウンサー。しかし野心は凄く、いつかテレビ業界(電波の城)のトップに立ってやると言うのが表向きの話です。そしてもう一つ、実は17年前に集団自殺したレムリア教団と言う新興宗教の生き残りであることが裏の話であり、知られてはいけない過去です。

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電波の城のトップに立つ為のアナウンサーとしての権力争い。レムリア教団に纏わる秘密を暴こうとする者との攻防。この二本柱で話は成り立っています。

 

この二つの大きなストーリーが交錯してとんでもない話に展開していくのですが、これが物凄く面白いんです。前段にも描きましたが、細野不二彦さんは漫画の見せ方が物凄く上手いので、話があっちに行ったりこっちに行ったりしてもきちんと話が理解できるんです。漫画でもドラマでもそうですが、過去の回想シーンなどを頻繁に挟むと、一体今なにをやっているのかわからなくなることがあるのですが、電波の城はそんなことがなくスイスイ読み進められます。このあっち行ったりこっち行ったりの悪い例は、ハッキリ名前を出すと最近では浦沢直樹さんの「BILLY BAT」です…。これは演出過多と言うか、あっちこっち行き過ぎと言うか…。簡単に言えばやり過ぎなんです。

 

テレビ業界の暗部

テレビ業界のパートでは、人間関係のドロドロは勿論、CMやスポンサー、放送法、下請け制作会社、インターネットなどの際どい話がどんどん出てくるので、その辺に興味がある人も面白く読めると思います。

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最近はテレビ離れなんてニュースも良く聞きますが、どうしてそうなったのかなども漫画の中で色々語られています。その辺も面白く読めました。ともすればこの説教臭くなったり、学校の授業のようになったりする話を面白く読ませるのが上手いんです。

 

こんな話になるとは思わなかった

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この電波の城が始まった当初は、単純にテレビ業界のトップに立つ権力闘争の話だと思いましたし、実際に暫くはそうだったのですが、新興宗教のレムリア教団の話から、ここまで過去の秘密の話に展開するとは思いもしませんでした。その話の流れが緩やかで、かつ確実に進んでいくので実に読みやすかったです。

 

前段でも触れましたが、この辺にも細野不二彦さんのバランスの良さがあって、どちらか一方の話だけに偏らず、アナウンサーとしてのキャリアアップの話と、レムリア教団を探るジャーナリストとの攻防がバランス良く進むんです。

 

勿論恋愛要素もアリ

若い女性が主人公の話ですから、当然恋愛要素の話もあります。全くないと逆に不自然ですからね。その恋愛要素も、本筋のアナウンサーとしての権力闘争や、レムリア教団の話を邪魔しない程度にバランス良く入ってくるので、脇道に逸れすぎることもなく、読んでいて非常に快適です。

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女性が主人公の話なので、漫画を読む際に感情移入するタイプの人だと敬遠するかも知れませんが、男性向け漫画雑誌に掲載されていたこういった女性主人公の漫画の場合、主役級の脇役男性が必ずと言って良いほど出ます。この電波の城も谷口ハジメと言う、男性読者が感情移入できる登場人物がいるので、感情移入して読みたい人にも問題ないと思います。

 

細野不二彦漫画のお勧め

細野不二彦さんの漫画だと、個人的にはママと太郎がお勧めです。と言うか私が大好きな漫画なんです。

 

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ママは好きになった女性がバツイチで、それに対する葛藤や障害があるので、めぞん一刻が好きな人は方向性としては同じなので合うんじゃないでしょうか。

 

 

太郎はサラリーマンボクサーの話で、これも細野不二彦さん得意の「二つの顔を持つ」、「人には秘密にしている」ストーリーなので、ボクシング漫画としてだけではなく、恋愛漫画としても面白いです。

 

細野不二彦漫画最高傑作かも

オチに関しては絶対に知らないで読んだ方が面白いので後に回しますが、この電波の城は、細野不二彦さんの漫画では一番ガツンと心に残ったかも知れません。ただこれは「一番面白い」、「一番好き」とは違います。勿論面白いのですが、一言で面白いと表現しきれる類いの漫画ではありませんでした。

 

一番好きとの面で言えば、前段でも挙げたママか太郎です。全体的な作風やラストも含めて面白いと胸を張って人にお勧めできる漫画です。一方この電波の城は、単純に面白いよと気軽に薦められるような漫画ではなく、もうちょっと補足説明しないと駄目かなと。確かに面白いのですが、ジャーナリズムが現在抱える問題だったり、テレビの問題や暗部にまで切り込む社会性も持っているので、もしかしたらその辺を説教臭く感じるのかも知れないというのが一点。もう一つはママや太郎の持つ、純粋に漫画を読んで楽しいという気持ち以外に、ダークな気持ちになる部分もかなり多いので、読んでいて気持ちのいい話ばかりではないというのが一点。ただそれでも漫画好きなら是非とも読んで欲しいお勧めの漫画です。

 

漫画と言うより、天宮詩織と言う一人の人生を描いた激しくも悲しい物語と言った方が合っているのかも知れません。大袈裟ですが、時折出てくる谷口ハジメの回想記、そして衝撃のラストにより、漫画の枠を超えた物語になっています。

 

「ザ・ワールド・イズ・マイン」ほど読んでいて気分が悪くなるわけでもなく、ドロドロした過去に引きずられる話が適度にあり、かつ漫画として面白いのでお勧めです。まあここで例に出したザ・ワールド・イズ・マインは、漫画史に残るくらい気分が悪くなる漫画なので、比較対象に相応しくないかも知れませんが…。

 

 

ちなみにこのザ・ワールド・イズ・マインは気分が悪くなるほどダークな話なのに、読むのを止められないほど面白いと言う非常に不思議な魅力のある漫画でした。精神的に弱っているときにはお勧めしませんが、元気なときに一度読んで見ると面白いかも知れません。

 

レムリア教団にいたころは無罪

この主人公の天宮詩織は、皮肉なことにレムリア教団にいた頃は無罪なんです。なにも罪を犯していないんです。それもそのはずで、レムリア教団が集団自殺をした中、一人生き残って脱出したのが10歳のこと。そこから遡って数年前に母親とレムリア教団に出家したわけですが、レムリア教団にいた頃は子供だったので、責任能力が無いのは勿論、実際にもなにも罪を犯していないんですよね。

 

ところが皮肉なことに、そのレムリア教団から脱出し、天宮理一に引き取られてから、他人の戸籍を違法に乗っ取ってなり成りすましたことが始まりで違法行為が始まってしまいました。レムリア教団の生き残りに誘拐されそうになったときには、天宮理一が人を殺し、事故死した死体を隠蔽し…。もう後戻りできなくなってしまったんですよね。ただこれも天宮詩織がやったことではないので、罪には問えないと思うのですが、アナウンサーという公の立場になったことで、本人を罪に問えずともこのスキャンダルが命取りになってしまうので、色々際どいことや表に出せない人間関係にどっぷり浸かってしまいました。

 

一つの嘘を隠すためにまた嘘をつき、またその嘘を隠すためにまた嘘をつき…の典型ですね。どこかでこの悪循環を断ち切れれば良かったのですが…。

 

お勧めかと言われると…

個人的にはこの電波の城は無茶苦茶面白かったです。全23巻を一気読みしちゃいましたからね。ただ主人公の天宮詩織はハッキリ言えば「悪い女」ですし、周りの人間もクズがいたりして、読んでいて純粋に楽しい気持ちになれる漫画ではないので、万人受けする漫画ではないと思います。合わない人からすると、一刀両断でつまらないと言われても仕方の無い漫画かも知れませんし、天宮詩織のキャラクター大嫌いと言われても不思議ではありません。ただ私はそれら全てを含めて、どんな感想になるのであろうと、漫画好きの人には一回読んで欲しい漫画だと思っています。

 

そしてラストは…(ネタバレあり)

ここからは完全にラストのネタバレになるので、未読の人、これから読もうと思っている人は絶対に読まないで下さい。映画のシックス・センス並に、ラストを知らない方が格段に楽しめる漫画だと思います。

 

今回、完結したとの情報を得てから一気読みしたのですがラストが…。衝撃的すぎて呆然としてしまいました。最初はお天気お姉さんがテレビ業界で上り詰めていくサクセスストーリーのはずだったのですが、いつの間にか新興宗教が絡んできて、最後は主人公の天宮詩織がマスタールームを占拠して拳銃自殺って…。まさかこんな結末になるとは…。面白いと思ってはまっていればいるほどショックを受けますね…。そして私は一気に23巻まで読んでしまうほどガッツリはまったので当然ショックを受けました。

 

最初読み始めたときは、「お天気お姉さんがテレビ業界で上り詰めていく話かあ、楽しそうだな~」程度に軽い気持ちで読んでいたんですけどね…。

 

お天気お姉さんの話だったのを思いつきで新興宗教を絡めたってわけでもないと思うので、予定通りのストーリーだったんでしょう…。作者の細野不二彦さんはきっちりストーリーを消化しきりますからね。突然の打ち切りでわけがわからないまま終了とか、行き当たりばったりのストーリー展開をする漫画は余り記憶にありません。

 

こんな事を創作物で考えても仕方が無いのですが、天宮詩織がアナウンサーを目指さず普通の生活をしていれば、少なくともデッドエンドにはならなかったのに…。デッドエンド確定はジャーナリストの三隅を殺したときですよね。あれさえ無ければ少なくとも死なずに済んだのでは…。

 

自分の過去を暴露されキャリアや人生が台無しになりそうだから口止めに殺す。殺人者に良くある動機なのですが、人を殺しちゃったら過去をばらされる以上に自分の人生台無しになるのですが、その辺のロジックは追い詰められて壊れちゃうんでしょうね。

 

拳銃自殺するシーンは少し変わっていて、ドバッと血が出て…って描写ではありませんでしたね。天宮詩織の父親が死んだときも、命が抜けていく様子が視覚的に見える変わった能力を持っていることが示唆されていました。そして天宮詩織自身が死ぬときも、頭から血が出る描写ではなく、血の代わりに植物のりんどう(花言葉は悲しみによりそう)を模した「命」が抜けていく様を絵にしていましたが、これがなんとも言えず悲しいというか幻想的と言うか。それでいて死ぬときの天宮詩織は目的をやりとげた満足感から笑顔と言うね…。

 

ただ少し不可解なところもあって、西の神祇官が生き残っているのを知り天宮詩織は脅すのですが、それがなんとも中途半端と言うか、「その話はどうなったの?」って感じだったので、多少は打ち切りの色が強く、本来より急いで纏めたのかも知れません。また、もう少し細かく考えると、あのVTRは命を賭してまで流すほどの物だったのか?、本城律子の政界進出の話は?など疑問はあるのですが、この漫画は天宮詩織の人生を追ったものなので、その辺は描く必要の無いことなんでしょう。一応そう自分でも納得しました。

 

しかしこの後味はどうしたものか…。主人公が拳銃自殺なので、どう解釈してもハッピーエンドとは言えず、バッドエンドなのですが、じゃあ完全にバッドエンドかと言うと、最後の描写や天宮詩織の表情を考えるとそうとも言い切れないような…。この複雑な感情は自分でもわかりません。ただ物凄く面白い漫画だったことは自信を持って言えます。

 

読み終わって感じたのは、「ああこれはフォレスト・ガンプだな…」と。フォレスト・ガンプもフォレスト・ガンプの激動の人生を描いた映画なのですが、この電波の城も天宮詩織の激動の人生を描いた漫画でした。それは読み終わって初めて分かることですね。時折出てくる谷口ハジメの回想の記は、谷口ハジメがのちに出した天宮詩織の人生を書いた本でこう書かれたと言う事でしょう。この電波の城と言う漫画自体が、実は谷口ハジメが出した天宮詩織の人生を書いた本そのものだったってことですね。

 

この文章を書いているのが読み終わって二日後のこと。未だに混乱していて書きたいことが纏まっていません。乱筆乱文ご容赦下さい。しかしこの呆然感とか喪失感は漫画を読んでいて久々に感じました。

 

こんな人にお勧め

  • 細野不二彦の漫画が好きな人
  • 権力闘争の話が好きな人
  • 新興宗教の話が好きな人
  • テレビ業界の話が好きな人
  • サクセスストーリーが好きな人
  • ドロドロした話が好きな人

 

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